えのさんの琉歌ものがたり

「琉歌」って知っていますか?知っているけど、今はそんなになじみがないと思っていませんか? 知らなきゃもったいない、意外と面白い琉歌のことをわかりやすく解説します。

人物伝悲話

尚徳王女と幸地里之子 その2

さて、尚徳王女と幸地里之子(こうちさとぬし)の恋は静かに確実に育っていきました。
いつしか2人はお互いの存在なしでは生きられないと感じるようになっていました。
若いこともあり、2人は多少の危険が会っても会うようになっていました。

そうしていたからでしょうか。
ついに、2人の関係が尚徳王の知るところとなってしまいます。
尚徳王は下っ端役人が王女をたぶらかしたと思い込み、激怒しました。
そして、幸地里之子を捕らえて死刑を宣告し、あまつさえ彼が育てた花を根こそぎ処分しました。
王女は泣きながら父を説得しますが、王は頭に血が上りやすく、一度決めたことは絶対曲げない人だったので、判決を覆すことはありませんでした。

そして、とうとう幸地里之子は識名(しきな)の馬場で処刑されてしまいました。

幸地里之子の死を知った王女の悲しみはとても大きなものでした。
ずっと泣いて、泣き続け、やがて涙も枯れ尽くしました。
一日中ただ、惚けたように座っているだけ。生ける屍と化していました。

王女がそのように過ごしていたある雨の晩のことでした。
全てが寝静まり、雨の音だけが聞こえていました。
王女はふと誘われるように彼が手入れをしていた庭にきていました。

彼が大切に育てた花たちが咲いていた庭。
彼と出会ったところ。
雨に濡れた美しいカタカシラ。
緊張しながらも、一生懸命気持ちを伝えてくれた時の声。
そして、優しい笑顔・・・・l

王女は雨に打たれながら、彼との思い出を思い出していました。
そしてふと、周りを見ました。
花があふれていた庭は跡形もありません。
ただ、むき出しの土に冷たい雨が打ち付けているのです。

王女は泣きました。
涙は枯れたと思っていたのに、どんどんあふれてきます。
声にならない叫びが胸を押しつぶします。

どれくらいそうしていたでしょうか。
雨はあがっていました。
もう、王女は涙も叫び声すらも出てきません。

王女は呆然と虚空を見つめて、歌をつぶやきました。

しぬび あらわりぬ(密かに愛しあったことが知れた罪は)
わみふぃちゅい あらな(私一人だけがかぶればいい)
はなまでぃん みくし(あの方の花までひどいことになるなんて)
ふぃちゅら とぅみば(心苦しくてたえられない)

雲の隙間から月が顔をのぞかせました。
王女は何かを決心した顔で城壁に登りました。
城壁に立った彼女の衣を風が揺らしています。
そして、風がやんだ刹那、彼女は舞い上がるように飛び降りました。
花のような笑顔を浮かべて、彼の元へ飛んでいくように。

王女が自殺したことは王の意向で伏せられました。
内容が不名誉なものであるため、尚徳王女の名は記録からも消されてしまいます。
しかし、人の口に戸は立てられません。
いつしかその話が広まり、それを聞いた人がこんな歌を詠みました。

てぃんぬにに とぅびゅる(天の近くを飛んでいる)
わしん くまたかん(ワシもクマタカも)
ぬはらすむとぅいに(野原のような低いところに住む鳥と)
うてぃてぃ すゆさ(落ちて一緒になるものなんだなぁ)

身分が高い人でも低い人でも、人は誰でも人を好きになるものだということです。

さて、荒らされた2人の庭には、こぼれ種でもあったのでしょうか。
一輪の花が咲いていました。
風に揺られて、日を浴びて輝いています。
これからすぐ起こる動乱なんか関係ないと言うように、自由に。気高く。

いかがでしたか。
今回は実在していない人物ということで、民話を元に脚色を加えて、物語のように仕上げました。
この二人の話は前から好きで書きたいと思っていたので、私も書いてて楽しかったです。

さて、 2人の歌をみると、尚徳王女の歌はストレートに気持ちを表現していて、幸地里之子は一歩引いて敬っているような歌となっています。
身分の差もというのもありますが、王女の素直さや幸地里之子の真面目さを表しているようにも思えます。

また、尚徳王女の歌の中には「さとぅ(里)」とか「さとぅめ(里前)」とあり、幸地里之子のには「んぞ(無蔵)」とあります。
これはそれぞれ恋人を呼ぶ時に使うものです。 わかりやすくいうと「ダーリン」とか「ハニー」といったところでしょうか。
琉歌の恋歌にはよく使われる表現ですが、それがあることによって、二人の関係の親密さがわかります。

昔は身分があって自由に恋ができなかったもの。
この2人がもし今生まれ変わっていたら、幸せに暮らしているかもしれません。
なんて考えるのも面白いですね。

では、今回のお話はこれまで。
次は歌碑を紹介します。
おたのしみに!


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河合えの
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琉歌とカメと家族をこよなく愛するアラフォー女子(*´∀`)
今日もバタバタと東奔西走(^-^)v

沖縄の素晴らしい琉歌を、分かりやすく楽しく伝えられたらいいなぁと思っています(^-^)